ロシア政府 ビザなし交流を一方的に破棄

ロシア政府は5日、日本人と北方領土住民による「ビザなし交流」に関する合意を一方的に破棄する政令を出した。プーチン政権は、ウクライナ侵攻をめぐって欧米と協調して対ロシア制裁を発動した日本を「非友好国」に指定している。北方領土問題を盾に一層の揺さぶりをかけた格好だ。


プーチン大統領は極東歴訪中で、これに合わせて発表した可能性がある。対日戦勝を祝う「第2次大戦終結の日」を3日に迎えたロシアは、北方領土などを舞台に日米などをけん制する大規模軍事演習「ボストーク(東方)2022」を7日までの予定で実施している。


政府のポータルサイトで発表された政令は「1991年の日ソ外相間の往復書簡による(四島交流の)合意、ならびに99年の日ロ間の(口上書による自由訪問の)合意の効力を停止する」と説明した。日本人の元住民による墓参の扱いには触れていない。91年の合意を提案したゴルバチョフソ連大統領は8月30日に死去した。


ロシア外務省は今年3月の時点で、日本側の責任と主張する形で、北方領土問題を含む平和条約締結交渉の中断を表明。その際、91年と99年の合意に基づくビザなし交流を停止すると発表していた。今回は運用上の措置だけでなく、ロシア政府として正式な破棄に踏み切ったことになり、日ロ関係のさらなる冷却化は不可避とみられる。
ビザなし交流は、新型コロナウイルス禍で中断を余儀なくされた。その収束を待たずしてロシアによるウクライナ侵攻が始まり、ロシア側の中断表明で再開は暗礁に乗り上げていた。


合意破棄に関し、スルツキー下院外交委員長はタス通信に「制裁を受けたロシア政府によるやむを得ない措置で、日本に対するかなりセンシティブな対抗措置となる」と解説した。

松野博一官房長官は6日の記者会見で、ロシア政府が北方四島の「ビザなし交流」に関する合意を一方的に破棄したことを受け、「極めて不当であり、断じて受け入れられない」と述べ、ロシア側に抗議したことを明らかにした。ロシア側から日本政府に対する通知はないという。


林芳正外相によると、外務省の池上正喜欧州局参事官が6日、駐日ロシア大使館次席に抗議した。


松野長官は「日ロ関係の現状は全てロシア側に責任がある。四島交流事業等を行う状況にはない」と指摘。「日本政府として元島民の方々の思いに応えたい考えに変わりはないが、このような対応を取らざるを得ない」と述べ、理解を求めた。