マレーシア機撃墜が対露外交に及ぼす影響

ウクライナ東部でのマレーシア機墜落をめぐり、日本政府が難しいかじ取りを迫られている。国際社会は「撃墜」との見方を強めており、親ロシア派武装勢力によるものとなれば、日ロ関係に影響が及ぶのは必至。ウクライナ情勢に絡み、北方領土交渉を抱える対ロ外交で政府の苦悩は深まるばかりだ。
「原因究明については、しっかりと国際社会で取り組んでいかなければならない」。安倍晋三首相は18日夕、視察先の福岡市で記者団に対し、午前中と同じ発言を繰り返した。菅義偉官房長官は記者会見で、ウクライナ情勢に関して「G7(先進7カ国)と連携を深めながら適切に対応していきたい」と従来方針を強調。一方、対ロシア外交については「国益に資するように日ロ関係全体を進めていく方向性に変わりはない」と述べた。
日本政府は断定を避けているが、米国のバイデン副大統領は「撃墜されたようだ」との見解を表明。オーストラリアのアボット首相も「撃墜されたことに疑問の余地はないようだ」と指摘する。墜落現場付近は親ロシア派の勢力圏でウクライナ軍と激しい戦闘を繰り広げており、親ロシア派が軍用機と誤認した可能性が出ている。
日本政府はG7と協力して原因究明に努める構えだ。菅長官が会見で「墜落現場に全ての関係者のアクセスが確保されることが極めて重要だ」と強調したのは、米欧寄りの姿勢をアピールする狙いからだ。特に米国に対しては、拉致問題に関する日朝交渉を円滑に進めるためにも配慮は不可欠だ。
ただ、首相はロシアのプーチン大統領との個人的信頼関係に基づき領土交渉を進展させたい考え。政府はクリミア編入を受けた対ロ制裁を小幅にとどめたが、プーチン大統領は「交渉プロセスを停止しているのか」と揺さぶりをかけた。墜落で日本政府の抱えるジレンマは、より深刻化するとみられる。外務省幹部は「注意深く対応すべきだ」と、当面は各国の出方を注視する姿勢を示した。(2014/07/18-19:32)<<