放送メディア研究 ムネオハウスに触れる講演録が掲載

今月発売の一冊。NHK放送文化研究所が今年から発行を始めた年刊の定期刊行物「放送メディア研究」に、2003年2月18日にNHK放送文化研究所で行われた学習院大学教授・遠藤薫先生の講演「インターネット・メディアとマスメディア-私たちはどのような<現実>を生きているか-」が掲載されています。
この中で、田中真紀子外相更迭騒動から始まる2002年当時の政治の動きに対するネットの動きとして、ムネオハウスが紹介されていました。

公共圏と文化創造 - ムネオハウス現象の意味するもの

この時もう一つ興味深かったのが、『YAHOO!』の掲示板で、「ここでごちゃごちゃ言ってもしょうがない。明日国会にデモをかけようじゃないか」といった話が出ていたことです。そこで「行こう!行こう!」という話になって、具体的に時間やお互いの目印まで決めるのですが、実際、当日に国会に行った人はほとんどいなかったようです。掲示板では議論が盛り上がっても現実の行動には結びつかなかったわけです(ただし、抗議の電話やメール、小泉メルマガ登録解除といった行動には結びついたようです)。
ネットコミュニティでの沸騰現象は、強力なオピニオン・リーダーの扇動によるものではありませんでした。ばらばらに潜在していた意見が、ある出来事をきっかけに収斂されていく。その背景として、メディアを媒介とした共在姓が作用したと言えるでしょう。しかも、微視的には混沌そのものに見えるネットコミュニティの世論も、巨視的には広域にわたる世論と連動していることも事実です。それは、その後マスメディア各社が発表した世論調査結果からも明らかです。ただ、現時点では、これらのネット世論が、共振して社会全域的なムーブメントを形成する動きには至っていません。このようなネット世論が、今後、社会に対しどのように作用するのかは、興味のあるところです。
その意味で、象徴的なケースを一つご紹介しましよう。「ムネオハウス・ムーブメント」です。簡単にご説明しますと、2002年の2月14日に『2ちゃんねる』で、「ムネオハウスアシッドハウス」というスレッドが立ちます。当時、話題になっていたムネオハウスハウス・ミュージックのハウスをかけた駄洒落でした。ところが一週間後に本当に曲を作った人が現れた。そうすると、みんなが次々とムネオハウスというジャンルで曲を作り始め、それが数百曲にまで達するという騒ぎになりました。やがて音楽だけではなくてアルバムジャケットを作る人、ライナーノーツを書く人、プロモーションビデオを作る人など次々に現れて、ある種の文化ムーブメントになり、さらには実際にライブハウスでイベントが開催られ、大量の人たちが押しかけるという事態に発展します。とはいっても、荒々しい感じはなく、たいへん和やかで楽しいイベントだったようです。
その後5月に京都、7月に新宿でイベントがありましたが、結局、ムネオさんの話が消えてしまうと同時になんとなく終焉しました。この出来事の特徴は、ネットの外部と現実的に結びつき、文化的な側面と政治的な側面とが融合した現象を起こしたということです。これが直ちに何かに結びつくとは考えられませんが、ムネオハウスという政治的な事件に対しワンクッション置いて、それを笑いでくるんで、しかも音楽としても完成度が高いという点が、かつての学生運動などとは異質な新しい公共圏の誕生を示唆するようにも思われるのです。
遠藤薫 「インターネット・メディアとマスメディア - 私たちはどのような<現実>を生きているか - 」 『放送メディア研究 1』 (日本放送協会放送文化研究所, 2003) pp.226-227

最初のLPOのイベントは和やかっていうほどでも無かったように記憶しております。遠藤先生も来場されていたMUNERE'02は皆さんお行儀が良すぎて和やかすぎたくらいでしたけど。

備考

記事投稿日: 2011年12月9日
なおこの講演と同様の趣旨の論文が2002年に発表されており、それを採録した書籍が2005年に刊行されています。