3/4 外務省調査報告書 詳報

外務省が四日公表した北方四島人道支援事業などに対する鈴木宗男自民党衆院議員の関与疑惑調査報告書の詳報は次の通り。
【川口順子外相の見解】外務省に寄せられてきた国民の信頼を裏切ったことは極めて遺憾であり、国民に深くおわびしたい。外相として先頭に立って再発防止に全力を尽くすとともに、職員と共に改革に取り組み、外務省と外交に対する信頼回復に努める。
園部逸夫参与の総括】国後島の「友好の家」建設工事に加え、同島の桟橋改修工事入札参加資格の決定過程で、鈴木議員と外務省関係部局との間で、細部にわたるやりとりが行われていたことが明らかになった。これは社会通念に照らしてあってはならない異例なことと言わざるを得ない。
調査の中で印象付けられたことは、北方四島人道支援事業で鈴木議員の意向が突出した形で重視されており、外務省が日ごろの接触などを通じ鈴木議員の意向を推し量り、無視し得ないものと受け止めて、実現する方向に動かざるを得ない雰囲気が省内に存在していた点だ。このような関係が当然視されてきたことは異常だ。
また、ロシアに関係する外務省職員を中心として、鈴木議員との関係をめぐり、職員相互に根強い不信感が存在していることも感じられた。さらに、鈴木議員の意を受けて行動することに躊躇(ちゅうちょ)を覚える担当者が上司に相談した際、鈴木議員の意に沿うよう指示した例も見られた。こうした風土の形成に関与してきた当時の幹部職員の責任は極めて重い。
【調査の概要】強制力を有する警察、検察の捜査とは異なり、外務省参与による任意の調査。期間は十日間と限られていたが、可能な限りの調査を行った。
外務省欧州局ロシア支援室、国際機関「支援委員会」事務局が保管している関係書類について必要に応じて精査した。外務省欧亜局(当時)関係者、支援委員会事務局関係者、友好の家建設工事関係業者から聞き取り調査を行った。聴取対象者は合計四十一人だった。鈴木議員は対象に含めなかった。
【調査結果】鈴木議員は一九九七年九月、北海道、沖縄開発庁長官に就任し、同年末から北方四島人道支援事業への関与の度合いを深めていた。支援案件の入札参加資格の決定過程にまで深く関与した事例として国後島の友好の家建設工事と桟橋改修工事が確認された。これらの事例で欧亜局関係者は、入札参加資格を決定する前に鈴木議員の意向を確認していた。
北方四島人道支援事業に関する具体的な案件の選定は四島側の要請に基づいて行われる。今回の調査では、鈴木議員の意向のみにより選定されたものは確認されなかった。
イ、友好の家建設工事  同議員は従前から欧亜局関係者に、地元企業を使うことが重要だと指摘していた。九九年五月二十七日、入札参加資格を「北海道に本社を有する者」に限るとする欧亜局関係者の発言に対し、鈴木議員は「北海道内ではなく根室管内に本社を有する者」に改めるよう求めた。
欧亜局関係者が調査した結果、根室管内に本社を有するBランク以上の会社は1社しかないことが判明。欧亜局は支援委員会事務局とも協議し、北海道内に本社を有する者で、気象条件が国後島に近似する根室管内で類似施設建設工事の施工実績を十分に有する者であることなどを入札参加資格案とし、鈴木議員は了承した。
鈴木議員は入札参加資格決定に深く関与していた。一国会議員(当時官房副長官)が自己の影響力を行使して、変更を求めるなど細部にわたり入札参加資格決定過程で関与したことは異常で、社会通念上あってはならないこと。また、欧亜局関係者が鈴木議員の意向に配慮しすぎたことは問題だ。
ちなみに入札参加資格の当初案では、最新の経営事項審査における「建築」の総合評定が千二百点以上とされていたのに対し、入札公告では同九百点以上とされていた。総合評価の要件が変更された理由は今回の調査では明らかにならなかった(受注した渡辺建設工業、犬飼工務店の総合評定は、それぞれ九百十六点、九百六点)。
ロ、国後島桟橋改修工事  九七年十二月十一日、同議員は欧亜局関係者らに「以前から四島住民支援には根室など地元の企業を使えと何度も言ってきている」「北方領土返還運動の地元の関心を維持するためにもこういう工事くらい地元企業に引き受けさせるくらいの配慮があってもいいだろう」などと声を荒らげて地元業者を使うよう強く要望。検討の結果、根室では該当者数が二、三社で、参加資格を地元のみに縛ることは北海道開発局でも前例がなく不可能、などの意見が出た。欧亜局関係者らは、施工現場の自然環境などと類似する道東海域での豊富な施工経験を有すること、入札説明会は施工現場に近い根室市で行うことなどを記載したペーパーを同議員に手交して内容を説明。同議員は「結構である」と了承した。
さらに九八年一月三十日、同議員は欧亜局関係者に「地元業者へ仕事が落ちるよう配慮したものとするよう言ってきている、支援委員会なりが入札手続きに関する規則うんぬんと融通のきかない、うるさいことを言っているとしたら我慢ならない」と非難した。
ハ、自航式はしけ建造工事  調査の範囲では同議員の関与は確認されなかった。しかし、九七年十二月十一日、欧亜局関係者らが自航式はしけ「希望丸」の進水式の日程を説明した際、同議員は直前まで説明がなかったことに「外務省は誠意がない」などと述べ、「自分が説得してやっと実現したものだ。出来上がったら自分(外務省)の手柄だなんて考えてもらっては困る」と述べた。
ニ、ディーゼル発電設備  調査の範囲では同議員の関与は確認されなかった。公告から入札説明会、説明から入札までの期間が短すぎるとの批判に対し、関係者からは四島での作業が極めて難しいとの事情を踏まえれば、十分な工期を確保するために入札までの日程が短くならざるを得ないとの説明があった。
ホ、燃料支援  調査の範囲では同議員の関与は確認されなかった。
一連の支援案件の金の流れに不正は見あたらなかった。支援委員会は国内企業との契約である以上、当然消費税を支払うべきものと理解し、基本的に消費税を加えた額で契約を行っていた。法律上支払う必要のなかった消費税分については、支援委員会事務局が返還請求を行う可能性も含めて、早急に調査・検討すべきである。
終わりに 外交や外務省に関する意見のうち不適切なものはき然と排除し、国会議員との間で新しい関係を築く必要がある。こうした点は外務省改革のための「変える会」で早急に検討すべきだ。支援委員会の入札関連規則の整備などを早急に図る必要がある。
コンゴ臨時代理大使へのID発給など】二 ○○○年五月にコンゴ(旧ザイール)の駐日臨時代理大使に任命されたヌグウェイ氏の外交官IDカード未発行問題で、鈴木氏は同年八月中旬にヌグウェイ氏について「外交経験も全くない若者で、臨時代理大使として適当とは思わない」と中近東アフリカ局参事官に発言。鈴木氏私設秘書のムルアカ氏は同月、アフリカ一課を訪れ、ヌグウェイ氏と面会した担当者を課全体に聞こえる声で激しく非難した。
同年十月に中近東アフリカ局長の指示でアフリカ第一課長がヌグウェイ氏にID発行の方針を説明したのに対し、鈴木氏から「野党議員やマスコミに同議員のひぼう中傷を働きかける人物は適当でない」との強い反応があったため、同局は「コンゴ政府の検討を白紙に戻すよう意見交換することが適当」との結論に達した。
同局関係者がムルアカ氏の発言に影響を受けたことは否定できず、鈴木氏の発言により配慮を加えて方針を決定したことは問題だ。
ムルアカ氏が現在所持する旅券は外交旅券と推測されるが、コンゴ政府から確認されていない。ムルアカ氏は九八年十二月にIDカード発給を申請したが、発給を指示したり、発給した者はいない。不正受給の疑惑を指摘された儀典官室前首席事務官も否定している。
八○年以降、在日コンゴ大使館関係者へ発行したIDのうち十六枚が未回収。
ケニアのダム事業】当時官房副長官だった鈴木氏の一九九九年八月のケニア訪問はユネスコ事務局長選挙への支持要請が目的。ソンドゥ・ミリウ水力発電事業の第二期工事は、深刻な電力不足のため事業実施の緊要性が高く、遅延が事業費増大につながるものと認識されていた。
交換公文は締結されていないものの事前通報がなされており、第二期分の二○○○年十月の着工を実現するため同年一月にケニア側の責任で入札手続きを開始した。
先行入札に関し、関係者は特定の国会議員の関与、影響力行使はなかったと回答。国際協力銀行の調査でも調達ガイドラインに従って行われたと確認された。<<