新現実 Vol.2 「『ネットの創作物は誰のものか』~匿名掲示板とタカラ『ギコ猫』商標登録騒動から考える~」

角川書店発行のムック「新現実 Vol.2」に掲載された澁川修一氏による記事。「ネットコミュニティを媒介にした創作活動」の例としてムネオハウスが言及されていました。

インターネットの最大の特徴は個人が簡単に発信できるメディアとしての機能,すなわち双方向性にあるといわれる.しかし,インターネットユーザの拡大と常時接続環境の普及により,最近はそれを遥かに超える「網方向性」とも呼ぶべき状況が生じてきている.日本の「ウェブ日記」等にその源流を求めることが出来る,いま流行の"blog"にしても,何が注目されているかといえば,個々人の考え方が簡単に発信でき,それがハイパーテキストで何重にも連結されるという,双方向性を超えた個人メディアとしての機能である.そのようなインターネット上での発信手段として,最も簡単なのがワールド・ワイド・ウェブ(www)技術を用いた電子掲示板である.


 その種の電子掲示板の中でここ数年,急激にその勢いを増しているのが「2ちゃんねる」(以下2chと略する)に代表される,匿名性を「ある程度」保証した巨大掲示板群である[1].本小論は2chそのものの議論ではないため詳細は捨象するが,基本的な特徴として,特定のテーマや管理人の趣味嗜好が反映されることが多い通常の掲示板に比べて,以下のような特徴を持つと言えよう:

  1. 匿名性を高めた(IPアドレスは取得しているが,明示されない)プログラム仕様.
  2. 多様なテーマについて同時並行的に扱うことが出来る構造.(マルチスレッド)
  3. ユーザの参加により,ボランタリーに行われている管理の仕組み.
  4. 極めてシンプルな原則により情報の選別を行う仕組み(フローティング・システム)を持つ.
  5. 匿名性がもたらす,参加者の同質性.(社会的立場などはそれほど影響しない)

2ch以外にも同種の形式を持つ掲示板はmegabbs等,多数存在するが,それらが組み合わさった巨大掲示板群コミュニティは莫大な量の情報を取り扱っている.(2chの場合,ページビュー(PV)は一日に2000万PVを超えており,保有する掲示板(板)の数は200以上である)中にはノイズに等しい書き込みや,誹謗中傷の類も見られることは確かだが,IPアドレスを取得するようになったとはいえ,ある程度の匿名性が担保された空間では気軽に書き込みが行えるという敷居の低さには特段変化が無いこともあり,多量の書き込みが日夜行われている.それらのユーザの参加により形成される情報資産は,特に趣味・生活系の掲示板を中心に ,巨大な知的データベースを形成している.[2]


その結果,多種多様なネット上での情報の結節点としての価値を匿名掲示板が持ち,「情報が集まるところに人が集まり,さらに情報が集まる」という原則に従い,巨大な情報資産を持つ「コミュニティ」となったのである.そのようなコミュニティが媒介となり,最近では多種多様な創作活動が行われるようになってきたことにも注目すべきであろう.鈴木宗男衆議院議員(当時)の疑惑報道を契機に2chDTM板を拠点に制作された自主ハウス・ミュージックムネオハウス」や,Flash板を舞台に繰り広げられる自主制作flashアニメーションなどがその代表例である.


(後略)
澁川修一 「『ネットの創作物は誰のものか』~匿名掲示板とタカラ『ギコ猫』商標登録騒動から考える~」『新現実 Vol.2』(角川書店 2002) p.252 *文章の引用は上掲Web版から

本文の元になった国際大学GLOCOM機関紙『智場』2002年7月号掲載のレポート「タカラ『ギコ猫』商標登録問題と 2ちゃんねる」ではこれらの記述はありませんでした。

備考

記事投稿日: 2020年10月9日