ムネオハウスに一章割いた論文で博士号を取る人

2014年12月に開催された第26回日本ポピュラー音楽学会年次大会 (JASPM26)にて「ムネオハウスにおける『CD化』」と題した発表を行った大阪市立大学大学院・岡田正樹氏が「ウェブにおける音楽と賑わい : 1990年代~2000年代初頭の日本の事例を中心に」と題した論文でウェブの近過去の賑わいの事例としてムネオハウスの話に一章使い、無事に博士号を取得されていました。

第 4 章は、2002 年の鈴木宗男事件をきっかけに、インターネット掲示板 2 ちゃんねるにおいて展開した音楽実践、ムネオハウス(2002 年)を扱っている。本章では、ブロードバンド化が徐々に進み始め、情報環境が大きく変動する時期に盛り上がりを見せたムネオハウスの実践において、その盛り上がりを加速させた(擬似)ディスク制作の試みに注目した。そしてインターネット掲示板上の実践が、既存のパッケージ・メディアといかなる関係を取り結んだのかを示すとともに、音楽ディスク制作をめぐる不特定多数のユーザーによる様々な試みを通じて、インターネット掲示板における賑わいが生まれる様子を明らかにしている。先行研究において、ムネオハウス参照元への批判(パロディ)や傾倒ではなく、参照元の意味を無化・脱臼させる表現という意味においてパスティーシュを創出すると指摘されていた。本章では、ムネオハウスパスティーシュの側面があるのは確かだろうが、それは政治的事件への参照の仕方であって、上記論文では扱われていなかったパッケージ化に着目することでパスティーシュとは別の側面が見えてくるとした。その上で、録音文化(録音を基盤とする音楽文化)における録音の機能の変容などに触れながらムネオハウスにおけるパッケージ化の意味を示した。ムネオハウスは、瞬間的な盛り上がりの中で既存の音楽メディアを取り巻く諸制度を突き崩す側面を見せると同時に、掲示板上での諸実践を残していくというアーカイブ的な試みの側面もあった。ムネオハウスは、一時的な賑わいであるが、同時に、パッケージを媒介とすることで、その盛り上がりの姿は、明確な形として恒常的に残されていくことになった。
岡田正樹 『ウェブにおける音楽と賑わい : 1990年代~2000年代初頭の日本の事例を中心に』(要約) p.2 (大阪市立大学 学術機関リポジトリ)

論文審査の結果の要旨
(中略)
第 4 章は、自民党国会議員(当時)鈴木宗男の利権疑惑をきっかけに、インターネット掲示板 2 ちゃんねるを舞台として展開した音楽実践であるムネオハウス(2002 年)が対象となる。インター ネット接続のブロードバンド化の進展により、ネット上での音楽流通が比較的容易になったこの時期 (1999年にはアメリカでファイル交換ソフト、Napstar をめぐる騒動が生じていた)の日本で、ネ ット発の音楽実践として「賑わい」を見せたものとしては最初のムーブメントとして位置づけられる。 2ちゃんねるにおけるコミュニケーションを介して、パロディ的な音楽実践が集合的に行われたムネ オハウスは、井手口(2009)が指摘するような、ネットにおける音楽実践の特徴とされる物質性の 欠如を伴わず、むしろ「本物そっくりの」CDパッケージ・アルバムの制作を志向する方向性をあか らさまにした。遠藤薫「テクノ・エクリチュール」(2003)などの先行するムネオハウス論が着目し てこなかった、この「ネット音楽実践の物質化」は、むしろインターネットの特性である流動的な文 化実践を固定化し、アーカイブ化する機能があったと本論文は主張する。この指摘は確かに重要では あるのだが、流動的なインターネット・メディアが文化実践の中でヘゲモニーを増す中で、従来の(レ コードやCDメディアを主軸とする)録音文化のアーカイブ機能がどのように変化しているかについ て意識的な研究が増えている今日のポピュラー音楽研究の文脈の中では、ムネオハウスの歴史的意義 についてより踏み込んだ議論が可能だったのではないかとも思われる。
(後略)
『ウェブにおける音楽と賑わい : 1990年代~2000年代初頭の日本の事例を中心に』 (論文の内容の要旨及び論文審査の結果の要旨) p.5 (大阪市立大学 学術機関リポジトリ)

どういう資料を積み上げてどう考察したのかは全文を読んでみないと分からないので、いつかどうにかして現物に当たってみたいと考えております。

備考

記事投稿日: 2018年4月22日

なお本件に関連した話題として、2015年初頭に人づてに「ムネオハウスの論文を書くために当時の人にインタビューがしたい」という依頼がこちらや当時のコテハン界隈の一部に来ていたものの、その話に続報無いまま有耶無耶になっていた件も申し添えておきます。どこかで連絡が止まっていたのかもしれませんが、あれは一体なんだったんでしょうか。

こういうこともあったので是非全文が読みたいのです。