音響メディア史

谷口文和氏(京都精華大学ポピュラーカルチャー学部講師)、中川克志氏(横浜国立大学大学院准教授)、福田裕大氏(近畿大学法学部講師)の三名による共著。谷口氏が担当した第14章「音を創造する飽くなき探求-レコーディング・スタジオにおけるサウンドの開拓」内で具体例の一つとしてムネオハウスが取り上げられています。またmuneohouse.netから取ってきた1stアルバムEU版のジャケット画像も掲載されています。

増殖するサウンド

さらに, インターネット環境においてレコード音楽がパッケージを必要としなくなると, サンプリングを通じたサウンドの増殖はさらに加速した。元となる音も音楽に限らず, 何かの拍子に注目を集めた音を流用したダンス・ミュージックが制作されてインターネットで流通するという減少がしばしば見られるようになった。


そうした現象の一つに, 2000年代なかばに日本で爆発的に流行した「ムネオハウス」がある。2002年, 当時国会議員だった鈴木宗男に起こった一連の政治スキャンダルの中に, 彼の肝入りで北方領土に建設された, 通称「ムネオハウス」という施設があった。この話題が連日テレビで取り上げられるうちに, 「ハウス」をダンス・ミュージックの一種であるハウス・ミュージックに読み替え, 国会で答弁する鈴木らの声をサンプリングした楽曲が次々とインターネットで公開されるという自体がおこった。匿名で発表された楽曲群は「DJムネオの作品」として扱われ, ウェブサイトで架空のアルバムとしてまとめられた (遠藤 2003 : 77-79)。


ここで注目すべきは, 「ムネオハウスにおけるムネオの声」が, 実在する鈴木宗男という人物の声とは別のもの, すなわちサウンドになっているということだ。ムネオハウスを面白がって制作した人々は, テレビで繰り返し流れてくる声が, それゆえに一種のサウンドと化していることをよく見抜いていた。レコード音楽をレコードから開放したデジタル環境では, 歌や演奏に限らずさまざまな音がサウンドとして増殖していくのだ。
谷口文和 「音を創造する飽くなき探求」 『音響メディア史 (メディアの未来05) 』 (ナカニシヤ出版 2015) pp.278-279

第二段落末にあるように、2003年の遠藤薫氏のムネオハウス研究論文「テクノ・エクリチュール―音楽における身体性と共同性の非在/所在」が下敷きになっています。

なお、ここで言うサウンドとは「『音階』、『拍子』、『和音』といった楽譜上に表すことのできる枠組みでは測れない要素を持った音楽表現」を指し、「『ビートルズサウンド』『ヘビメタ・サウンド』といったように、ある音楽の特徴や印象を漠然と指すため用いられる傾向がある」と説明されています (谷口, 前掲, p.265)。

備考

記事投稿日: 2019年2月28日
記事の日付は当該書記載の発行日に準拠しています。